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    渚のシンドバッド(1995年)

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      ビデオで『渚のシンドバッド』(橋口亮輔監督)。

       

      この映画は、去年の正月に映画館で観て、その後ビデオを借りて観て、さらに、だいぶ前にWOWOWでやってたのを録画しておいた。今回観たのは、このエアチェック分のビデオである。

       

      どうして突然観る気になったかというと、前回、ジャック・フィニィのことを紹介するのに<後ろ向きのノスタルジー>と書いたとたん、『渚のシンドバッド』の主題歌が「うしろむきの私」というタイトルだったことを思い出したからだ。ただ、それだけのことなんだけど……『渚のシンドバッド』は何回観てもいいなあ。

       

      なにがいいって、映画の中で描かれる高校生たちの<関係性>がいい。

       

      伊藤(岡田義徳)は、委員長の吉田(草野康太)に思いを寄せている。その吉田は、優等生の彩子とつきあっている。ところが、吉田は、ほんとは周囲に媚びないことでクラスから浮いている転校生の果沙音(浜崎あゆみ)のことが好きだ。

       

      一方、おちこぼれ寸前の奸原(かんばら・スゴイ名字!)は、吉田と伊藤の仲間に入りたくてたまらず、なにかとふたりにチョッカイをかけるのだが、どうしてもその親密さに割って入れないでいる。そして、奸原の恋する調子のいい不良少女リカは、果沙音の<強さ>に敵意さえ感じている……

       

      伊藤、吉田、奸原、果沙音、彩子、リカ。この6人の中で、とりわけ深い傷を負っているのは、伊藤と果沙音だ。伊藤は<同性愛>に悩み、果沙音は<強姦された記憶>を抱えて生きている。ふたりが、お互いの傷に気づき、それには直接ふれないで共鳴しあう姿は、ほんとに美しい。このふたりを見ていると、恋人なんて、所詮<ただの恋人>じゃん、っていいたくなってしまう。

       

      クラスのリーダー的存在の吉田の悩みは、果沙音への思いを秘めながら彩子と付き合っている自らの<優柔不断>だ。そのうえ、伊藤からの<捨て身の告白>にまで応えようとして混乱する(笑)。なんて誠実なやつなんだ!

       

      彩子は、吉田の果沙音へのまなざしになんかとっくの昔に気づいている。でも、彼女の苦しみは、吉田の思いそのものよりは、吉田を魅きつける果沙音の<強さ>を羨望するところから生じている。そして、果沙音の<強さ>が<弱さ>と表裏一体であることに気づかない。

       

      「相原さん(果沙音のこと)って、近寄りがたいっていうか……なんでも自分でできますっていう感じで……」と果沙音を評する彩子に、伊藤はピシャリといい放つ。「そういうこと、かんたんにいわないほうがいいよ」

       

      <優等生である劣等感>に悩む彩子をいやすのは、意外にも奸原だ。奸原は、吉田と伊藤の親しさを羨み、リカと平気で話せる伊藤を嫉妬するあまり、彼の自転車を池に捨ててしまうような子供っぽい少年だが、彩子の生彩のなさに気づく繊細さを持っている。校舎の屋上(学園もので必ず登場する<密会場所>だね)で、元気のない彩子に向かっておどけてみせる奸原に、彩子は微笑む。
      「ムリにおもしろいこといってくれなくてもいいんだよ」と。

       

      ときに傷つけ合いながら、いろいろに交錯する思い。一番思いを伝えたい人にうまく伝えられなくて、意外な人が分かってくれる皮肉。でも、彼らはいつも、途方に暮れながらも一生懸命で……そして、お互いの秘密を厳守することに忠実だ。

       

      その凛々しさがたまらない。

       

      橋口監督は、ここんとこ注目されてきた若手監督のひとりで、この映画を観るかぎり(これしか観てないんだけど)とても好感の持てる映像作家だ。すべてのシーンにキチンと意味があり、ひとつひとつが全体の中で生きている(いわずもがなのセリフはいくつかあったような気はするけど……)。感覚的な表現力と、論理的な構築力を持った人だと思う……つくづくうらやましいね。

       

      ところで……ここからは超・私事で恐縮なんだけど、実は、伊藤役をやった岡田義徳君とは、一度だけ会って話したことがある。大ラッキーが重なって、この売れないシナリオライターのところに、さる連続ドラマの三話分を書いてくれという依頼があった。そのドラマに、偶然にも岡田君が出演していたのだ。

       

      そりゃ、うれしかったですよ! 私の資質とは180度ちがうドラマで苦しかったけど、岡田君のセリフだけは書くのが楽しかった。
      そして、製作打ち上げパーティで、岡田君と遭遇……思ったよりずっと男っぽい印象! このチャンスを逃してなるものか、とばかりに話しかける。「『渚のシンドバッド』の伊藤君、すばらしかった! あの映画、自分ではどう思ってるの?」
      すると岡田君は、おだやかな童顔に少し困ったような微笑みを浮かべていった。「あれは……すごく大変でした……むずかしかったです」

       

      ゴメン。尋ねた私が悪かった。そりゃそうだろう。ストレートの岡田君がゲイを演じたのだから(その逆もまた大変だろうけれど)。でも、大変さを微塵も感じさせない演技だった。そして岡田君は、さらに言葉を続けた。

       

      「ぼく、こういうキャラクターなんで、いつも繊細な役しかこないんですけど、ほんとはもっといろんなことをやってみたいんです。たとえば、ワルいやつとか……(頭を下げ)どうか今後ともよろしくお願いします」
      やってください! どんどんやってください! あなたならばできると思う。よろしくお願いされてもなにもできない私は、岡田君の活躍を草葉の陰で祈るばかりです。

       

      あれ以来、岡田君の動向には気を留めている。このたび、かのNHKの朝の連続テレビ小説『甘辛しゃん』に出演が決まってるみたいだが、番組紹介を読んだかぎりでは、またもや<繊細な青年役>のようだ。

       

      ……自分の気持ちをかなえることは、ほんとにむずかしいね。

       


      監督:橋口亮輔
      出演:岡田義徳、草野康太、浜崎あゆみ、山口耕史、高田久実、勇静華、村井国夫、根岸季衣、袴田吉彦 ほか

      JUGEMテーマ:映画

      nancy * 映画(ナ行) * 22:20 * comments(0) * -
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